皆さんよくご存じのとおり、英国は世界でも有数の紅茶大国のひとつ。そんな英国の紅茶ブランドの中でも、「ハロッズ」や「フォートナム・アンド・メイソン」のような高級ブランドは日本でもよく知られていますが、一般の人たちが愛飲する庶民派のブランドはあまり知られていません。そこで今回は、英国の庶民派ブランドの中でも代表的な紅茶を3つ飲んでみました。
英国の一般庶民の紅茶文化について
本題に入る前に、英国の一般庶民が紅茶をどのように飲んでいるのかについて、少し補足しておきましょう。
日本に住む僕たちにとって、英国の紅茶文化と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはりアフタヌーンティーだと思います。おしゃれな茶器で紅茶を飲みながら、2段や3段のケーキスタンドに乗ったサンドイッチやスイーツを食べるアフタヌーンティーは、近年日本でもちょっとしたブームになりつつありますね。
しかし、ここでちょっと冷静になって考えてみてください。
一日に何度も紅茶を飲む人たちが、紅茶を淹れるたびにいちいちティーポットを使っているのでしょうか?
もちろんそういう人もいなくはないかもしれませんが、普通は一日に何回も繰り返すことこそ楽をしたいと思うものですよね。実際、英国の紅茶消費量のうち9割以上がティーバッグであると言われており、マグカップで紅茶を淹れてそのまま飲むのが一般的な飲み方です。言い換えれば、ティーポットとリーフティーで紅茶を淹れる人のほうが実は少数派ということになります。
しかも、英国(に限らず紅茶消費国の大半)の紅茶の飲み方としては、ストレートティーよりミルクティーのほうが主流です。この点については、英国に最も紅茶を輸出している国がケニアである*1ということからも、容易に想像ができます。というのも、以下の記事でも書いたとおり、ケニア産の紅茶はCTC製法の茶葉がほとんどであり、ミルクティーによく向いているからです。
teaisbalmforthesoul.hatenablog.com
つまり、「マグカップにティーバッグを放り込み、お湯を注いでしばらく待ってから、牛乳(と砂糖)を加えて飲む」というのが英国で一般的な紅茶のスタイルなのです。
庶民派ブランドの紅茶の特徴
こうした紅茶の飲み方に対応するためなのか、英国の庶民派ブランドの紅茶にはいくつかの共通点が見られます。
まず、牛乳に負けない濃いめの紅茶をスピーディーに淹れられるよう、茶葉のサイズが非常に細かくなっています。日本でも、スーパーなどで買えるティーバッグの紅茶には、サイズの小さい茶葉がよく使われていますが、英国のティーバッグはさらにその上を行く細かさです。あまりに小さいので、抽出後の茶葉はまるで泥のような塊になります。
また、日本のティーバッグにはほぼ間違いなくタグが付いていますが、英国のティーバッグにはタグが付いていないものも少なくありません。理由は定かではありませんが、ミルクティーを作るためにスプーンを使うので、タグがなくても問題ないと考えられているようです。それどころか、中にはティーバッグを取り出すときにスプーンで絞る人や、ティーバッグを入れっぱなしにしたまま紅茶を飲む人さえいます。
さらに、ティーバッグが個包装されていたり、袋にジッパーが付いていたりせずに、ティーバッグがむき出しの状態で箱に入っている商品もあります。「紅茶の保管に気を遣ってしまうのでは?」と不安になりますが、どうせ一日に何杯も飲んであっという間に消費するので、心配無用なのかもしれませんね。
今回のラインナップ
さて、ここからいよいよ本題の飲み比べに入っていきましょう。まずは今回のラインナップを紹介していきます。
PG Tips
PG Tips(ピージーティップス)は、ブルックボンドの創設者として知られるアーサー・ブルック(Arthur Brooke)が1930年に設立したブランドです。1984年にブルックボンドがユニリーバに買収されて以来、PG Tipsもユニリーバ傘下のブランドとなりました。また、1990年には英国で初めてピラミッド型のティーバッグを採用したそうです*2。
PG Tipsにもいろいろな商品がありますが、今回はもっともスタンダードな「The Original」という商品を選びました。パッケージ裏面によると、茶葉の産地は「ケニア、スリランカ、インド」とのことです。
Tetley
Tetley(テトリー)はジョゼフ・テトリー(Joseph Tetley)とエドワード・テトリー(Edward Tetley)の兄弟が1837年に創設したブランドです。フォートナム・アンド・メイソンやトワイニングほどではないにせよ、現存する紅茶ブランドの中ではかなりの老舗と言えるでしょう。ただし、2000年にインドのタタ財閥に買収され、現在はグループ企業のTata Consumer Productsの傘下となっています。
PG Tipsと同じく、今回の飲み比べでは最もスタンダードな「Original」を使うことにしました。茶葉の産地はスリランカとインドです。
Yorkshire Tea
3つ目のYorkshire Tea(ヨークシャーティー)は、英国王室ご用達のブランドであるTaylors of Harrogate(テイラーズ・オブ・ハロゲイト)が販売しているカジュアルラインの紅茶です。ブランド誕生は1977年とPG TipsやTetleyより遅いものの、統計プラットフォームのStatistaによると、現在はこの2ブランドに続く第3位のシェアを獲得しているそうです。
なお、Yorkshire Teaには「Gold」というやや割高な商品もありますが、今回は通常版の商品を使用します。産地はパッケージには書かれていないものの、Taylors of Harrogateの公式サイトによると、アッサムとアフリカの茶葉を使用している*3そうです。
飲み比べの感想
さて、いよいよ本番の飲み比べに入りましょう。なお、風味の違いを比べやすくするために、どの商品もストレートティー用には熱湯で2分、ミルクティー用には5分抽出しています。
以下の写真では、左側が2分抽出、右側が5分抽出となります。
PG Tips
焦げ付いたような香ばしいほろ苦さが最初に来た後、舌の付け根でタンニンの渋みが感じられます。ミルクティーにしてもほろ苦さが残り、カフェオレのような味になります。味の香ばしさに関しては、烏龍茶の一種である武夷岩茶に近いかもしれません。
Tetley
花のような香りの後に、舌が痺れるほどの強烈な渋みを感じます。ミルクを足しても香りや味の強さは健在です。3つの中でも特に飲みごたえのある味になります。
Yorkshire Tea
他の2つに比べると、マイルドながらキレのある味わいです。ミルクティーは牛乳の味が紅茶の風味とうまく共存しており、最もスタンダードなミルクティーらしい味になります。日本に住む僕たちにとっても飲みやすい味ではないかと思います。
というわけで、同じ庶民派のブランドといっても、思いのほか味に違いがあって、楽しい飲み比べでした。どのブランドも食料品店で比較的手軽に購入できるので、ミルクティーが好きな方は選択肢のひとつに加えてみてはいかがでしょうか?
*1:オランダ外務省の部局であるCBI(Centre for the Promotion of Imports from developing countries)のレポートによる。
*2:1996年とするサイトもありますが、この記事ではPG Tipsの公式サイトに則っています。
*3:原文は、To give our blend its refreshing flavour, strength and colour we use top quality Assam and African teas.となっています。