これまで「産地の研究」シリーズでは、さまざまな紅茶の産地を扱ってきましたが、スリランカの主要産地の中でひとつだけ取り上げていないところがありました。それはハイグロウンのウダプセラワです。ウダプセラワ(ウダプッセラワとも)は日本で茶葉を扱っているお店が非常に少なく、当然ながら入手できる情報も限られています。とはいえ、ひとつの産地として扱われている以上、ウダプセラワだけを仲間外れにするわけにはいきません。
そこで今回はウダプセラワの特徴を詳しく見ていきます。なお、いつも以上に主観や推測に基づく記述が多く、歯切れの悪い文章になってしまっている点をご容赦ください。もっとも、そのほうが「産地の研究」というシリーズ名には相応しいかもしれませんが。
産地の特徴
冒頭で軽く触れたように、ウダプセラワはハイグロウンの産地のひとつです。ヌワラエリヤ、ウバ、ディンブラ、キャンディという4つの産地に囲まれており、特にウバと接している部分が大きいのですが、これは元々ウダプセラワがウバの一部だったため。より厳密に言えば、「ウバの中でもヌワラエリヤ寄りのところに位置していた部分がウダプセラワという独立した産地として扱われるようになった」という経緯があります。ひとつの産地として見なされるようになった時期については、2000年、2006年、2009年とサイトや書籍によって年号がバラバラなのですが、早くても2000年代以降と考えておけば間違いなさそうです。
元々はウバの一部だったということもあり、ウダプセラワはスリランカの山岳地帯の中でも、どちらかと言えば東側に位置しています。そのため、南西の季節風の影響を受ける7~9月頃がクオリティシーズンとなります。ただ、ヌワラエリヤに近い茶園では、1~2月頃の北東の季節風の影響が強くなり、冬にクオリティシーズンを迎えるそうです。このためウダプセラワは「年に2回クオリティシーズンを迎える」と説明されることもあります。
茶葉の特徴
ヌワラエリヤは「バラや柑橘を思わせる爽やかな香り」、ウバは「メントールのような香りと強烈な渋み」というように、紅茶の味や香りの表現は産地ごとにある程度決まっていることが多いのですが、ウダプセラワに関しては、定番の言い回しがまだあまり固まっていないようです。実際、紅茶の本や専門店のサイトでウダプセラワの特徴を調べてみると、以下のように表現の仕方にバリエーションがあることがわかります。
茶葉外観はやや明るい褐色、水色(すいしょく)は淡い褐色から赤褐色で、爽やかで締まった渋みと花香をもっています。(日本紅茶協会(編、2013)『紅茶の大事典』p.134)
水色はディンブラやウヴァより明るく、ヌワラエリヤより濃い。
清涼感がありクセなく飲みやすいこの紅茶はブレンドなどにもよく使用されておりとても親しみやすい紅茶です。(MUSICA TEA)
地域によって、隣接するウバ、ヌワラエリヤ、ディンブラそれぞれの個性が垣間見えることもあり、エリアとしての紅茶の個性をワンワードで例えるのはなかなか難しい産地です。(TEAPOND)
風味はヌワラエリアとウバの両方の特徴を持ち、飲みやすさと後味の渋みをしっかり併せ持つセイロンティー初めての人にもお勧めの茶葉になります。(中略)奇麗なオレンジ色の水色、甘いさわやかな香りに甘みの後に残る重みのある風味。(ワンダーリンクス)
とはいえ、この中で複数回使われている表現を抽出してみると、「オレンジ系の淡めの水色」「花のような甘い香り」「爽やかな渋み」「クセがなく飲みやすい味」といった特徴が浮かび上がってくると思います。これらの特徴が本当にウダプセラワに当てはまるのか、実際に飲んで確かめてみましょう。
今回用意した茶葉は、OPとBOPの2種類です。OPは横浜のスリランカ紅茶専門店MITSUTEAで購入したゴードン茶園の茶葉を使いました。
また、BOPの茶葉は芦屋の紅茶専門店ムジカティーのウェブサイトで注文しました。茶園限定かブレンドティーかについては、商品説明に書かれていないのでわかりません。
どちらも2.2gの茶葉を130mlの熱湯で3分抽出しました。右がゴードン茶園のOP、左がムジカティーのBOPです。
抽出が終わったところで、さっそく飲んでいきます。まずゴードン茶園のOPは、オレンジに近い薄めの褐色をしており、蜜を含んだ花のような甘い香りがあります。口に含むと、南国の果物をドライフルーツにしたような濃厚な甘さを感じますが、冷めてくると花の香りが強くなってきます。渋みはほとんどなく、マイルドで繊細な味です。
これに対し、ムジカティーのBOPはOPに比べると水色が濃くなりますが、それでも透明度は高めに見えます。香りは基本的にフローラル系で、その中にウバのようなミントフレーバーも感じられます。味については、多少の渋みはあるものの、同じハイグロウンのウバやディンブラほど強くはなく、比較的マイルドで甘みのある味です。また、冷めてくると中国の岩茶のような香ばしさも出てきます。
後日ミルクティーにもしてみましたが、牛乳を加えると紅茶のコクがよりいっそう感じられるようになります。それでいでアッサムやルフナほどのパンチはないので、すっきりしていて飲みやすいと思います。
以上を踏まえると、先ほど挙げた4つの表現のうち、「オレンジ系の淡めの水色」「花のような甘い香り」「クセがなく飲みやすい味」の3つはウダプセラワに当てはまると言えます。一方、「爽やかな渋み」については、渋みが出にくいOPの茶葉はもちろん、BOPでもそこまで強くは当てはまらない気がします。もちろん多少の渋みはありますが、ウバやディンブラなどと比べるとBOPでも渋みが少なく、マイルドで甘みがあるので、セイロンティーの渋みが苦手な人でも楽しめると思います。
また、BOPの茶葉はストレートでもミルクティーでも楽しめるので、普段使いのお茶としても便利です。「今日はお菓子に合わせたいからストレートにしよう」「今日はミルクティーが飲みたいからいつもより濃く淹れよう」というように、そのときの気分に応じて淹れ方を変えることで、どんなシーンにも対応できます。「日々の生活に紅茶を取り入れたいけど、どの茶葉にすればよいのかわからない」とお困りの方は、ウダプセラワを選んでみてはいかがでしょうか?