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キームン紅茶の特徴とは? 産地別紅茶の研究(12)

(最終更新:2024年1月12日)

前回のケニア紅茶編から少し間が空いてしまいましたが、今回は中国のキームン(キーマン、またはキーモンとも)について詳しく見ていきます。また、中国の産地を取り上げるのは今回が初めてなので、キームンに限らず中国紅茶の初歩的な知識についても最初に取り上げておきます。

なお、この記事では、産地である安徽省(あんきしょう黄山(こうざんし祁門県(きーむんけん)のことを漢字で「祁門」と表記し、祁門で作られる紅茶のことをカタカナで「キームン」と書くことにします。

 

中国の紅茶について

チャノキの原産国とも言われる中国は、世界最大の茶の生産国でもあります。中国茶の情報を発信しているティーメディアコーポレーションのブログによると、2021年の生産量は荒茶ベースで306.32万トンだったそうで、2位のインドを大きく引き離しています(ちなみにインドは130万トン前後)。しかし、ここで注意していただきたいのが、中国で生産される茶の大半が緑茶だということです。上記のティーメディアコーポレーションのブログによると、2021年度の生産比率は緑茶が60.3%だったのに対し、紅茶は14.2%だったとのこと。近年は紅茶の生産量が増えてきているそうですが、それでもやはり生産量の大半が緑茶なのは変わりません*1

中国茶といえば、この龍井茶のような緑茶が主流です。

とはいえ、伊藤園が運営している「お茶百科」というサイトにもあるとおり、中国産紅茶は大部分が国外への輸出に回されます*2。元々、酸化発酵の強い武夷山のお茶が「ボヘアティー(Bohea Tea)」として英国で親しまれていたことを踏まえると、中国産紅茶が輸出メインなのは当然の成り行きと言えるかもしれませんね。

そんな中国の紅茶には、今回取り上げるキームン以外にもさまざまな種類があります。代表的なものをいくつか紹介しておきましょう。

  • プサンスーチョン(正山小種)
    世界で初めて作られた紅茶」と言われることもある伝統的な紅茶です。松の葉や木を燻した熱で乾燥させることで、独特のスモーキーな香りが着けられます*3。本来の産地は福建省武夷山(ぶいさん市であり、それ以外の地域で作られたものは「タリースーチョン(外山小種)」と呼ばれることもあります。
  • 雲南紅茶
    その名のとおり、雲南省で作られている紅茶で、「滇紅(てんこう)(ディエンホン)」と呼ばれることもあります(滇は雲南省の古い呼称)。茶葉のサイズが大きい紅茶の場合、アッサムのようにゴールデンチップが多く含まれており、味や香りもアッサムのセカンドフラッシュに近くなります。詳しくはこちらの記事で解説しています。
  • 金駿眉(きんしゅんび)
    中国で紅茶ブームが起きるきっかけになった紅茶です。中国では渋みの少ないお茶が好まれるそうですが、金駿眉は茶葉の新芽の部分だけを使って作られるため、まろやかな味わいと甘く濃厚な香りがあります。これが渋味を嫌う中国の人たちに絶賛され、瞬く間にヒットしました。原産地はラプサンスーチョンと同じく福建省武夷山市です。

 

茶産地としての祁門の特徴

中国の茶産地は長江周辺とその以南に集中していますが、祁門は長江より少し南、主な茶産地の中では北部のほうにあります。

祁門では伝統的に緑茶が作られていましたが、1875年に余千臣という人物が福建省の製法を持ち込んだことで、紅茶の製造がスタートしたと言われています*4年間2,000mm以上もの雨が降る*5うえ、丘陵地帯で霧もよく発生するという祁門の気候条件は、質の高い紅茶を作るのにぴったりの環境でした。また、ラプサンスーチョンを参考にしたという製法も、キームンの上質さの秘訣です。磯淵猛(2016)『紅茶の教科書 改訂第二版』では、キームンの製法について次のように説明されています。

収穫は年に4~5回行われるのが普通で、特級品と呼べるのは、春先の3月から4月にかけての時期。だが、品質に違いがあるというより、この2カ月でおもな茶摘みを終えるといったほうが正確かもしれない。(中略)「工夫紅茶」の別名もあるほど製茶の工程は多く、20近い工程を経て8月にようやく出荷となる。(p.48)

なお、上記の引用の中に出てくる「工夫紅茶」とは中国紅茶の分類のひとつで、ティーメディアコーポレーションの記事では、「揉捻を用いて製造した条形の製品。いわゆるオーソドックス製法の紅茶」と定義が説明されています。

 

キームン紅茶の特徴

さて、そんな工夫紅茶のひとつであるキームンは、香りのよさが最大の特徴と言えるでしょう。キームンの香りは「スモーキー」と表現される場合もありますが、これは茶葉を炭火で乾燥させる過程で生まれることがあるそうで、キームン本来の香りはバラや蘭の花、あるいはリンゴや糖蜜などに喩えられます。

味については、渋みが少なく口当たりがマイルドな一方、テアニンの含有量が多いので甘みや旨味があります。その甘く優雅な味わいをストレートで楽しむのが基本的におすすめですが、しっかり抽出してミルクティーにするのも僕は好きです。

上質なキームンをミルクティーにすると、ベルベットのような舌触りになります。

 

おすすめのフードペアリング

キームンは渋みが少なくマイルドな味の反面、香りが特徴的なので、ペアリングの相手としても風味の強い食べ物がよく合います。たとえば、チーズやチョコレートはキームンとのペアリングでは定番の選択肢です。果物ならベリー類や洋梨などがよく合うと思います。

チーズケーキとキームンは間違いのない組み合わせ。

ただ、上質なキームンであれば、その香りの良さを紅茶単体で楽しむのもよいでしょう。その場合は煎を重ねて楽しむ中国茶式の淹れ方も試していただきたいと思います。

中秋節に飲んだキームン。茶葉は中国茶専門店のリムテーで購入しました。ちなみにこの写真は2煎目です。

 

*1:余談ですが、烏龍茶の生産割合は紅茶を下回っているそうです。日本に住む僕たちからすると「中国茶といえば烏龍茶」というイメージがあるので、ちょっと意外ですね。

*2:ただし、近年は中国国内で紅茶のブームが起き、国内消費量が急激に増えてきています。

*3:ただし、中国国内では燻香が強いお茶が敬遠される傾向にあるため、近年は燻香のない正山小種が増えてきているそうです。

*4:1876年に胡元竜という人物が烏龍茶をベースにキームン紅茶を完成させたのがはじまりであるという説もあります。いずれにせよ、祁門で紅茶作りが始まったのは1870年代中頃で間違いないようです。

*5:「旅情中国」というサイトに掲載されている統計では、各月の降水量を合計すると約2,300mmになります。ただし、主な降水は4~8月に集中しており、この5か月間だけで約1,500mmもの雨が降るそうです。