(最終更新:2021年1月18日)
前回まで、ルピシア グラン・マルシェの主なコーナーをひととおりご紹介してきました。しかし、前回のラストでもお伝えしたように、横浜会場ではダージリンサロンという特別コーナーも同時開催されました。
グラン・マルシェのレポート最終回の今回は、そのダージリンサロンの様子をご紹介トしたいと思います。
ダージリンには年に3回のクオリティシーズンが訪れますが、その中でも3~4月頃に迎える最初のファーストフラッシュは、日本での人気が特に高い茶葉です。そのファーストフラッシュの茶葉だけを20種類以上も集めて飲み比べられるようにしたのがダージリンサロンです。
ファーストフラッシュだけでどうしてそんなに種類があるの?と不思議に思われるかもしれませんね。
実はルピシアのダージリンティーは、毎年のブレンドの3種類に加えて茶園ごとの茶葉*1も揃っており、特にファーストフラッシュについては、毎年15~20か所以上もの茶園から茶葉を仕入れています。しかも、同じダージリン、同じクオリティシーズンと言っても、茶園によって茶葉の香りや味は驚くほど変わってきます。
こうした香りや味の違う茶葉を飲み比べて楽しみたい、という変態的な紅茶ファンの欲望を実現してくれるのがダージリンサロンなのです*2。
さて、前置きはこれくらいにして、いよいよサロンの中に入りましょう。
上の写真にあるように、ダージリンサロンは入場料が500円かかります*3。しかも、中学生未満は入場できません。紅茶好きの大人がゆったりダージリンファーストフラッシュを楽しむ、まさに「サロン」と言えます。
入場料を支払うと、ダージリンサロンの案内を渡されます。
中にはダージリンの産地の説明のほか、今年の茶葉のリストが載っています。さらに、それぞれの茶葉の横にはメモ欄があり、味や香りの感想を書き込めるようになっています。
この案内を受け取ったら、いよいよサロンの中に入っていきます。
サロンの中は、本会場と同じように試飲スペースが並んでいます。ただし、並んでいるのは当然すべてダージリンファーストフラッシュです。
なお、シングルエステートの茶葉は「花の香り」と「果実の香り」に分類され、そのカテゴリーに分かれて並んでいます。つまり、たとえばいったん「花の香り」のスペースに入ったら、同じ花のような香りの茶葉の試飲が十何種類も続くことになります。先ほどと言っていることが矛盾しますが、いくら味や香りのバリエーションが豊富とはいえ、結局はダージリンのファーストフラッシュであることに変わりはないので、飲み続けているうちにだんだん味がわからなくなってしまいます。
そこで、ダージリンサロンでは、飲み比べの途中で舌をリセットできるように、クッキーやケーキ、ちんすこうなどのお菓子が用意されています。どれもダージリンファーストフラッシュと一緒に食べると美味しいものばかりです。下の写真のキャロットケーキは、少し塩味が効いていてリセットにぴったりでした。
こうしてたくさんのファーストフラッシュを好きなだけ飲み比べて、自分の好みに合うものを見つけたり、ここぞとばかりにたくさん買い込んだりするのがルピシアのダージリンファンにとっての楽しみです。
さて、せっかくダージリンサロンでひととおり飲み比べてきたので、ここからは会場で実際に飲んだファーストフラッシュの感想を全種類紹介していきます。なお、茶葉の後ろに書かれている「◯」や「△」などの記号は、その茶葉に対する僕の評価(好き嫌い)を表します。
オリジナルブレンド
- ダージリン ファーストフラッシュ 2019 ◯
ファーストフラッシュの基本。 - ピュア ダージリンブレンド "マグノリア" 2019 ◎
Superflyの「愛をこめて花束を」のイメージ。 - ダージリン ファーストフラッシュ プレミアム 2019 ◯
洋梨を思わせる。
シングルエステート 花のような香り
- キャッスルトン ムーンライト ◯
香りは最高。 - タルボ ムーンライト △
紅茶の限界を超える。まるで無重力。 - マーガレッツホープ スプリングディライト ◯
マリー・アントワネットのイメージ。 - サングマ ホワイトブルーム ◯
チューリップや水仙など、球根のある花のよう。 - ヒルトン スーパーファイン △
かすみ草っぽい。 - アリヤ ダイヤモンド ◎
ブライア・ローズ*4のイメージ。 - ロヒーニ スプリングブロッサム △
ぼんやり。 - ナムリン アッパー ◯
南国の果実を思わせる。 - ピュッタボン ムーンドロップ ◎
ゴージャス、セレブ。 - シンブーリ ◯
よい意味でシンプル。ムダがない。 - シーヨク スプリングブロッサム ◯
原っぱ。素朴。 - タルザム ◎
春摘みの台湾烏龍っぽい。飲むと目が開く。 - タルボ ◯
輪郭がハッキリしている。「All in the Golden Afternoon*5」のイメージ。
シングルエステート 果実のような香り
- ジュンパナ アッパー △
渋みが残る。 - キャッスルトン ◎
高級なレーズン。深みのある味わい。 - グームティー △
軽すぎる。 - ティンダーリア ◯
やさしさに包まれる。 - ミム ◯
沼。はじめは軽く、終わりは渋く。 - オレンジバレー ◯
甘夏のよう。 - アボングローブ △
軽々とジャンプ。 - バーネスベグ ◎
蜜が入ったリンゴのよう。 - シーヨク △
ややプレミアムに似ている? - サマビオン ◯
パンチが強い。香ばしい。生命力を感じる - トムソン △
渋みが強い。 - ジン ◯
フレッシュな青みかん。
……すごい数ですね。これだけで28種類もあります。しかも、今回入場した時点ですでに完売になっていたものや、後から発売になったものも含めると、30種類を超えます。日本の紅茶好きがダージリンをどれだけ愛しているかを物語る数字と言えるでしょう。
ところで、上のリストの中に、同じ茶園の茶葉が複数含まれていることに気付きましたか? たとえば、タルボという茶園からは、同じ「タルボ」という名前の茶葉に加えて「タルボ ムーンライト」という名前の茶葉も出ています。また、シーヨクには「シーヨク スプリングブロッサム」という名前の茶葉もあります。しかも、「タルボ」と「タルボ ムーンライト」は同じ花のような香りに分類されているものの、「シーヨク」と「シーヨク スプリングブロッサム」は香りの種類すら変わっています。
同じ茶園の茶葉なのに、どうしてこのような違いが生まれるのか、その理由のひとつはダージリンの地形にあります。ダージリンはヒマラヤ山脈の麓、標高500~2,500mの地帯に茶園が広がっており、同じ茶園の中でも場所によって標高が1,000m近くも違う場合があると言われています。その結果、同じダージリンでも味や香りに豊かなバリエーションが生まれるのです。
そして、その中でも特に質の高いものが厳選されて、「ムーンライト」「ムーンドロップ」「スプリングブロッサム」「スプリングディライト」などの名前が付けられます。このような特別な名前が付けられていれば、基本的に高級で良質だと考えておけば間違いありません*6。たとえば、先ほどのタルボで言えば、通常の茶葉が50gで3,000円なのに対し、「タルボ ムーンライト」は20gで2,500円、つまり単純計算すれば、50gで6,250円と倍以上の値段になります。ちなみに、今回のダージリンサロンの中で(そしてグラン・マルシェ全体でもおそらく)最も高価な茶葉は、「バダンタン シルバームーン」。その値段はなんと20gで3,000円。50g換算で7,500円という驚きの価格です。にもかかわらずあまりの人気で、グラン・マルシェの開始からまもなくで完売してしまったとのこと。そのせいで、2日目に入場した僕は試飲すらできませんでした……。
……とまあ、このようにたいへん奥が(そして業も)深いダージリンの世界。ファーストフラッシュほどではないにせよ、セカンドフラッシュやオータムナルでも茶園ごとの茶葉がたくさん店頭に並びます。セカンドフラッシュの茶葉が日本にやってくるのはちょうどもうすぐの7~8月頃です。ルピシアはもちろん、ぜひ近くの紅茶専門店に足を運んでみてください。
*1:産地が同じ茶葉のことを「シングルオリジン」と呼ぶのに対し、産地に加えて茶園まで単一の茶葉のことを「シングルエステート」と呼びます。
*2:余談ですが、2017年までは品川のインターシティホールで「ダージリンフェスティバル」という独立したイベントとして開催されていました。
*3:招待状があれば無料で入れるという噂もありますが、真偽は不明です。
*4:映画「眠れる森の美女」に登場するオーロラ姫が森の中で暮らしていたときに名乗っていた名前
*6:ただし、高級で質の高い茶葉が自分の好みに合うとは限りません。たとえばワインでも、高級なものより安価なテーブルワインのほうが飲みやすいことがありますよね。紅茶もそれと同じです