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紅茶にまつわるフェイクニュース

(最終更新:2021年1月21日)

今回の記事は、紅茶に関する内容ではあるものの、本題はそれとは別のところにあるのですが……。 

SNSが普及し、まとめサイトやキュレーションメディアが跋扈する現代は、かつてないほど嘘やデマが広がりやすい時代と言えるでしょう。「フェイクニュース」と言えば多少オブラートに包むことにはなりますが、要は嘘や誤報、デマであり、時として事実をねじ曲げてしまいます。こうした状況は紅茶業界でも変わりません。 

 

たとえば、「紅茶は発酵食品」という説が流布しています。確かに、以前の記事で紹介した紅茶の製造工程には、「発酵」と呼ばれるプロセスが含まれています。

しかし、この「発酵」は本来の意味、つまり「微生物の働きで有機物が分解され、特定の物質を生成する現象」(『大辞泉 第二版』小学館)としての発酵ではありません。この点について、大森正司(2017)『お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ』(講談社)では、次のように説明されています。 

じつは紅茶、ウーロン茶でいう発酵、半発酵には微生物は関係しないので、その意味では発酵とは異なる現象なのです。

(中略)お茶の製造過程でいわゆる「発酵」と呼ばれている化学反応は、次の2通りあります。

1つ目は、紅茶、ウーロン茶ともに摘んだあとの茶葉の水分を飛ばし、萎れさせるために1晩ほど茶葉を広げて干す作業(「萎凋」 という)がおこなわれます。これによって、茶葉の成分が分解され、化学反応によって甘みや香りがよく出るのです。(中略)

2つ目は、(中略)茶葉を揉む工程です。ある程度、水分を飛ばした茶葉を機械や手で揉んでいきます。圧力が適度にかかることで、茶葉中のカテキンが酸化し、緑色から褐色に変化していくのです。 

このように紅茶、ウーロン茶ができるときには、微生物による発酵はかかわっていないことがおわかりいただけると思います。ここでいわゆる「発酵」と呼ばれる工程には、茶葉の中で水や酸素が加わって変化する化学反応なので、「付加反応」というのが正しいのです。 (p.27、引用ママ)

もう少し補足すると、茶葉には元々ポリフェノールオキシダーゼと呼ばれる酸化酵素が含まれており、この酸化酵素によってカテキン類が酸化重合を起こし、テアフラビンやテアルビジンといった成分に変化します。このプロセスを紅茶の世界ではなぜか「発酵」と呼んでいるのです。したがって、紅茶を摂取しても発酵食品の健康効果は期待できず、仮に同様の健康効果を得られたとしても、それは本来の発酵食品のような微生物の作用によるものではないということになります。

 

もうひとつ、最近twitterで見つけたフェイクニュースとして、次のようなツイートがありました。

全紅茶民に告ぐーーーーーーー!!!!!

めちゃくちゃ美味しい紅茶発見したんだけど、ドイツのメーカーで直営店は島根県にしかない!!!!!ティールームもある!!!!!
島根に来た際は出雲大社だけじゃなくて松江にも!!寄るんだ!!!松江は洒落た店がすぐ!!!潰れる!!!!!!!!!!!

補足しておくと、ロンネフェルトとはドイツの紅茶ブランドです。茶葉の品質の高さから、主に高級ホテルの紅茶として採用されていることが多く、一般でも手に入れることは可能なものの、流通路がやや限られています。

本題に戻ると、確かに島根県の松江には「ロンネフェルトティーブティック松江」という紅茶専門店があります。しかし、このお店は上のツイートにあるような「ロンネフェルトの直営店」というわけではありません。公式サイトをよく見ればわかるように、このロンネフェルト松江は有限会社アニバーサリーカンパニーというロンネフェルトとはまったく関係のない企業が運営しています。

www.anniversary-company.com

加えて、この松江の店舗以外にも「ロンネフェルトティーブティック」を名乗る販売店が日本国内に存在しますが、いずれもロンネフェルトが直営しているものではありません

ロンネフェルトの日本総販売元である株式会社ロンネフェルトティーブティックのサイトには、ティーブティックの認定を受けた店舗の一覧が掲載されています。この一覧の店舗を確認すれば、いずれもロンネフェルトとは別の企業が運営していることがすぐにわかります。

しかも、この株式会社ロンネフェルトティーブティックという会社自体、あくまでロンネフェルトの日本輸入総代理店である株式会社オッティ貿易の関連企業*1であり、ロンネフェルトの日本法人そのものというわけではありません。もっと言ってしまえば、「ロンネフェルトの日本法人」なるものがそもそも存在しないのです。

しかし、この不正確な情報が含まれるツイートが約4万件のリツイート、約8万件の「いいね!」を獲得しています。いくらツイートの趣旨が「ロンネフェルトの茶葉が松江でも購入できる」ということとはいえ、不正確な情報が広まってしまったのは良いことではありません。

 

……というように、紅茶にまつわるフェイクニュースが日々流布されています。僕は多少なりとも紅茶の知識があるのですぐに間違いだとわかりましたが、知識がなければ鵜呑みにしてしまう人も多いでしょう。あるいは、僕も紅茶以外の分野については、SNS上の情報を信じ込んでしまっている可能性も十分にあります。 

こうしたフェイクニュースを広めないようにするには、自分が知識を増やすことや、ひとつの情報を複数の視点から検証することも重要です。しかし、それ以上に重要なのは、自分が発信する情報に誤りが含まれていないか、裏を取るのを怠らないようにすることだと思います。 

SNSが従来のメディアよりも怖いのは、だれでも情報を発信できるようになると同時に、従来のメディアのような「スクリーニング」が行われない情報が大半を占めていることです。新聞や書籍などの出版物は、一般に公開される前に校正や校閲などのプロセスを経ています。もちろんそれでも事実と反する内容が含まれている場合もありますが、ある程度は篩いにかけられているはずです。しかし、SNS上の情報は基本的に個人が発信しているものなので、こうしたスクリーニングのプロセスをまったく経ていません。だからこそ、フェイクニュースを少しでも減らすためには、自分自身で情報のスクリーニングを行うことが不可欠だと思います。

このブログでは、記事に掲載する情報の出典をできる限り明記するようにしています。それは、参考になる書籍やサイトをご紹介するのと同時に、万一誤った情報が含まれていた場合に、その原因を追究し、すぐに修正できるようにするためです。

 

というわけで、今後もこのブログでは、情報の裏取りをしっかり行いながら、紅茶の知識を皆さんにお伝えしていこうと思います。

*1:なにしろ横浜事務所の住所がオッティ貿易とまったく同じです。