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紅茶はインフルエンザに効くのか?

4月1日はエイプリルフール。そしてエイプリルフールといえば嘘。というわけで、今回はエイプリルフール記念に、紅茶にまつわるフェイクニュースを考えてみたいと思います。

以前の記事では「紅茶は発酵食品」というデマなどについて考えましたが、今回は紅茶の健康効果、特に抗インフルエンザ活性に関して検討していきます。

 

「紅茶はインフルエンザに効く」と宣伝する紅茶業界

日本の紅茶業界では、「紅茶はインフルエンザ予防に効果がある」というのは半ば通説になっているようです。

たとえば、昨年の10月、日本紅茶協会紅茶ポリフェノールがインフルエンザウイルスの感染性を失わせることがわかった」というツイートをしました。このツイートはすでに削除されていますが、今でも紅茶協会のサイトには「紅茶はインフルエンザ予防に効果的である」という旨のページが掲載されています。

www.tea-a.gr.jp

 

また、カレルチャペック紅茶店が「紅茶はインフルエンザウイルスを99.9%無力化します!」などとする記事を公開していたり、ルピシアが「かぜやインフルエンザなどにならないために」お茶でうがいをしようと勧めていたりしています。

www.karelcapek.co.jp

www.lupicia.com

 

この他にも、「紅茶 風邪」「紅茶 インフルエンザ」などで検索すると、紅茶の抗インフルエンザ活性を謳う記事やページが嫌と言うほど出てきます。また、インターネット上の情報だけでなく、テレビなどのマスメディアでもたびたび取り上げられているようです。

 

専門家は効果を疑問視

しかし、こうした紅茶業界の宣伝やメディアの伝え方に対し、医師や感染症の専門家は疑問を唱えています。

たとえば、神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授は、サイゾーウーマンによるインタビューの中で、「本当にインフルエンザウイルスが無効化されるか、立証はされていないので、『そういった意見もある』程度の話」としつつ、紅茶がインフルエンザ予防に効果的と喧伝するメディアについて、次のように述べています。 

それは、実験室内で得られた「インフルエンザウイルスを抑制する」というデータを、あたかも「人間のインフルエンザという病気を予防する」と錯覚させるように伝えているということでは。詳しく説明すると、インフルエンザウイルスは「モノ」であり、インフルエンザは「病気」であって、ウイルスは病気の原因ではあるけれど、病気そのものではありません。また、「実験室内」と「人間の体」というのも、また別物なのです。多くの方がその2つを勘違いしているのではないでしょうか。

 

紅茶や緑茶に、「人間のインフルエンザという病気を予防する」というデータは、全然ないかほとんどない。したがって、プロの医者であれば、そんなものは勧めないのです。実験室内でのウイルス抑制に関するデータを針小棒大に語る研究者もよくないし、それを「インフルエンザ対策にもってこい」などとテロップで流すメディアもよくありませんね。

また、岩田氏は「telling,」という朝日新聞のウェブメディアによるインタビューでも、「根も葉もないデタラメです。紅茶でインフルエンザが治るなら、医者はみんな使っています」と話しています。さらに、J-CASTニュースに掲載された「『紅茶がインフル予防』に識者から懐疑論」という記事では、「培養細胞の研究と人の研究は全く異なる」「効果が立証されていない」という複数の現役医師の見解が紹介されています。

 

確かに、仮に研究室での実験で「紅茶の成分がインフルエンザウイルスを無効化した」というデータが得られたとしても、それが人間の体で同じように発揮されるとは限りません。ウイルスが体内に入った瞬間に紅茶を飲むことはまず不可能ですし、紅茶の成分が体内のインフルエンザウイルスをダイレクトに攻撃することも考えられません。

もちろん、今後研究が進展すれば、紅茶がインフルエンザ予防に役立つということが実証される可能性もあるかもしれませんが、少なくとも現時点では、インフルエンザの予防効果を期待して紅茶を飲むのはやめておいたほうがよいでしょう。

 

医学的な観点以外からも検討してみると

とはいえ、病気を簡単に予防できるかもしれない方法があるなら、それに頼りたいと思う気持ちはわかります。そこで、そんな気持ちを徹底的に叩き潰すために(笑)、医学的な観点以外からも考えてみたいと思います。 

統計データプラットフォームのStatistiaのデータによると、人口1人あたりのお茶の消費量が多い国ベスト3はトルコ、アイルランド、そして英国です*1。もし紅茶が本当にインフルエンザに効くのであれば、これらの国ではインフルエンザの件数が少なくても不思議ではありませんが、残念ながら実際はそうではなさそうです。 

たとえば、イングランド公衆衛生庁(Public Health England)はインフルエンザの発生状況やワクチンの摂取状況に関するレポートを発表していますが、毎年のレポートを見る限り、インフルエンザは普通に発生しており、病院や学校、介護施設などでの集団感染も多数発生しています。また、アイルランドの健康保護監視センター(Health Protection Surveillance Centre)が毎年発表している同様のレポートでも、やはり同じようにインフルエンザの発生が見られることが伺えます。 

つまり、紅茶をたくさん飲む国でも、インフルエンザは他の国と変わらず発生しているわけです。紅茶を飲んでもインフルエンザの予防にはならないということの傍証としては、これで十分なように思います。

 

「体によいから」「病気に効くから」紅茶を飲むのか

このように、紅茶にインフルエンザの予防効果があるとは考えにくい以上、紅茶業界やメディアが「紅茶はインフルエンザに効く」と宣伝するのは無理筋ではないかと思います。カフェインの利尿作用や覚醒作用、ポリフェノールの抗酸化作用など、より確実と思われる効能をアピールしたほうが賢明かつ誠実でしょう。 

ただ、ひとりの紅茶好きとしては、紅茶が「体によいから」「何かの病気に効くから」という理由だけで飲まれるとしたら、何だかなぁという気持ちになります。いくら紅茶が体によかったとしても、特別好きでもない人に紅茶を飲むよう強制したくはありません。それよりも、紅茶の美味しさを多くの人に知ってもらい、「紅茶は美味しいから」「紅茶の味や香りが好きだから」「紅茶を飲むと心が落ち着くから」といったような理由で飲んでくれる人が増えることを願います。

*1:なお、日本は10位に入っていますが、これは緑茶など他の種類のお茶も対象に含まれているためと思われます。