ただの紅茶好きが紅茶について色々語ったり勉強したりするブログ

ただの紅茶好きが、紅茶について知っていることをお話ししたり、紅茶の本やレッスンで勉強したりするブログです。

5周年記念にフォロワーさんの質問に答えてみた

今日、2023年10月28日でこのブログは開設5周年を迎えました。あまり頻繁に更新できているブログではありませんが、こうして5年間も続けてこられたのは、お読みくださっている読者の皆さんのおかげです。いつも本当にありがとうございます。

さて、5周年記念ということで、普段とは趣向を変えて、X(旧Twitter)でフォロワーの皆さんから質問を募集しました。

今回はお寄せいただいた質問に答えていきたいと思います。

 

食事メニューと紅茶のペアリングで、意外性のある組み合わせがあれば教えてください

前にも記事にしましたが、甘くない料理とのペアリングでは、大塚食品の「ジャワティストレート」が最強だと思います。

teaisbalmforthesoul.hatenablog.com

とはいえ、これだけだと話が広がらないし、意外性がまったくありませんね(笑)。そこでもう少しいろいろ考えてみたいのですが、実はこの質問を頂いた後、日本紅茶協会三井農林が共催するペアリングセミナーに参加したので、その内容をかいつまんでお伝えします。

紅茶と料理の相性がよいペアリングには、次の4つの効果のいずれかが働いているそうです。

  1. 同調:紅茶と食べ物に共通する香りがシンクロして、余韻が増す(例:アッサムとスイートポテト)
  2. 調和:紅茶と食べ物の香りの一部が重なることで、全体の風味が調和し、新しい香味が生まれる(例:アールグレイとレアチーズケーキ)
  3. 引き立て:紅茶の渋みが食べ物の後味をほどよく洗い流し、全体の風味を引き立たせる(例:ディンブラとマルゲリータピザ)
  4. 洗い流し:紅茶の渋みと香りがこってりした食べ物の味わいを打ち消し、口の中をリセットする(例:ウバとホワイトチョコレート

つまり、紅茶と料理の香りにある程度の共通性があり、かつ料理の味わいの強さと紅茶の渋みのバランスが取れていれば、相性のよいペアリングになりやすいということです。たとえば、ジェノベーゼのパスタとスリランカのヌワラエリヤの組み合わせは、紅茶の青い香りがバジルやオリーブオイルの青みとマッチし、かつ適度な渋みが脂肪分を洗い流してくれます。また、魚のカルパッチョとニルギリの組み合わせは、柑橘のようなニルギリの香りが魚の生臭さを打ち消しつつ、旨味を引き立たせてくれます。このように考えていけば、意外性のあるペアリングも見つかりやすくなると思います。

ペアリングセミナーの試食中の様子。ディンブラと塩せんべいの組み合わせが想像以上にぴったりでした。

なお、ペアリングの4つの効果については、日東紅茶のプレミアムラインであるnittoh.1909のサイトに詳しく書かれています。気になる方は一度読んでみてください。

nittoh1909.com

 

産地やメーカーが違う紅茶を混ぜて飲むことはありますか?

人によっては、中途半端に余った茶葉やティーバッグを自分で混ぜて飲むことがあるそうですが、僕はあまりやりません。普段自分で買っている茶葉は、その味や香りが気に入って選んでいることが多いので、自分で茶葉をミックスすることで味や香りが変わったり、なくなったりしてしまうともったいない気がしてしまいます。

ただ、この質問を頂いた後、自宅にあった安いダージリンとアッサムのティーバッグを1つのカップで同時に淹れてみたところ、わりと好みの味になりました(笑)。今後も手頃な価格で購入した紅茶が余ったときは、ミックスに挑戦してみたいと思います。

 

フレーバードティーでないはずなのに香料を添加している紅茶の見分け方はありますか?

これは僕もここ数年ずっと考えていることです。先に結論を述べてしまうと、確実な見分け方は残念ながら思いつきません

以前、スリランカのウバについて解説した記事で「茶葉によってはメントール香が人工的に後付けされている可能性がある」と書きましたが、こうした茶葉はウバ以外にもダージリンセカンドフラッシュや台湾の金萱茶などにも見られるそうです。「どうしてそんな詐欺めいたことをするんだろう?」と不思議に感じてしまいますが、これは僕たち消費者の側にも責任があると思います。

というのも、それぞれのお茶の特徴として一般的によく挙げられる香り*1が強く現れていない茶葉に対し、本物かどうかを疑う消費者が少なからずいるそうなのです。聞きかじった程度の知識しかない人には、香りの強い茶葉のほうがわかりやすいし、受けがよいのですよね。そこで、こうした「ニーズ」に応えるべく、茶葉に香りを後着けしているというわけです。

「美味しければ別になんだっていいだろう」という考え方もあるかもしれませんが、茶葉本来の風味を楽しみたい人(僕もそうです)からすると、こうした着香茶はできるだけ避けたいところ。そこで着香されていない茶葉を見分ける方法を2つ考えてみました。

ひとつは茶葉そのものの香りをかいでみることです。茶液の抽出前から不自然なほど強い香りが感じられる茶葉は、着香を疑ったほうがよいのではないかと思います*2

もうひとつは着香問題を認識しているお店で紅茶を買うことです。着香のリスクがあることを知っているお店であれば、香料を添加した茶葉に遭遇する確率も下がるでしょう。

少なくとも現時点ではこうした方法で自己防衛するしかないのではないかと思います。

 

紅茶をレビューするときの語彙はどうやったら増やせますか? 普段はどう選んでいますか?

これも僕自身、ブログを書きながら日々悩んでいることです。良い方法があったら僕が聞きたいくらいなのですが(笑)、それでは答えにならないので、少し詳しく考えてみましょう。

紅茶の香りや風味を言葉で説明しようとするときに、いちばん手っ取り早い方法は紅茶以外の物に喩えることだと思います。たとえば、ダージリンは花や果実、アッサムはモルトやサツマイモ、ウバはミントや湿布に香りを喩えることがありますよね。

こういう喩えがすぐに出てくるようになるには、自分が飲んだ紅茶の香りとそれに近い香りがする物を結びつける練習をするのが効果的だと思います。別の言い方をすれば、自分がこれまでに蓄積してきた香りの記憶の中から、今飲んでいる紅茶の香りに近いものを思い出す練習をするということです。普段からこういう習慣がある人は少ないと思いますが*3、たとえば新しく買ってきた茶葉を初めて淹れるときなどは、紅茶の香りを言葉で表現する練習にうってつけのタイミングだと思います。

また、表現の幅を広げるには、紅茶のブランドや専門店のサイトを見て回ったり、他の人の感想を参考にしたりするのもおすすめです。自分には思いつかなかった語彙や発想に出会えるのはもちろん、漠然と感じていた紅茶の特徴を言語化できるようになる可能性もあります*4。日本語以外の言語がわかる人は、国外ブランドのサイトを見てみると、「こんな喩え方もあるのか!」と驚くことがあるかもしれません*5

ただ、こうしてさまざまな語彙に触れたとしても、そもそもその香り自体を嗅いだことがなければ自分でもイメージできないし、その表現を使うのも憚られますよね。そういう意味では、紅茶以外のいろいろな物事を経験するのも大事だと思います。さまざまなことに挑戦し、経験を積んでいけば、自分の中の語彙も自然と増えていくのではないでしょうか。

 

ダージリンクローナル種について教えてください

この質問はX(旧Twitter)で10年以上お付き合いのある方から頂きました。非常に漠然とした聞き方をしていただき、ありがとうございます(笑)……という冗談はさておき。正直なところ、紅茶の品種については詳しい知識がないのですが、自分の知っている範囲で少し話をさせていただきます。

ご存じの方も多いと思いますが、クローナル種とは挿し木や接ぎ木などの方法で茶樹を増やしていった品種のことです。要はクローンですね*6。チャノキはツバキ科の植物であり、通常は実生による繁殖で(つまり種によって)個体が増えていくはずですが、クローナル種の場合は親となる茶樹の枝を切り取り、土に植えたり(挿し木)、別の木と繋げたり(接ぎ木)することで数を増やしていきます。

どうしてこんな方法を取るのかと言えば、実生の場合、親の特徴や性質が子どもにどの程度受け継がれるかわからないからです。たとえば、「ものすごく香りの良い茶樹を見つけたから、同じ香りの茶樹を増やしたい」と思っても、種の場合はその香りが子どもの茶樹にも現れるとは限らず、育ててみるまでわかりません*7。しかし、挿し木や接ぎ木といった方法を取れば、同じDNAを持つ個体を増やすことになるので、元の茶樹の特徴はクローンにも確実に現れます。こうして特定の性質を持つ茶樹を増やしていった品種がクローナル種なのです。

そんなクローナル種の中でも、素人の僕ですら名前を知っている有名な品種があります。それは中国種系の交配種であるAV2(Ambari Vegetative 2)です。AV2は花のような甘い香りが特徴と言われており、基本的には他の品種とブレンドされることが多いそうですが、稀にAV2単独のロットも見かけます。

TEAPONDで今年購入したフグリ(ピュグリ)茶園のセカンドフラッシュは、商品説明のカードによると、AV2単独のロットだったそうです。

それ以外のクローナル種についてはまったく知らないのですが、紅茶専門店シェドゥーブルのブログに一覧表があったので、よろしければご参照ください(他力本願)。

chef-doeuvre.shop

 

ある紅茶専門店がお湯の後にティーバッグを入れるよう勧めているのですが、このほうが茶葉への刺激は少ないのでしょうか?

ティーバッグを茶器に入れる順番をお湯より先にするか、それとも後にするかについては、以前別の記事(下記リンク)でも取り上げましたが、茶葉への刺激については考えていませんでした。

teaisbalmforthesoul.hatenablog.com

確かにお茶を淹れる際、茶葉に直接お湯を当てると負荷がかかります。そのため中国茶の世界では、特に産毛の多い緑茶や白茶などを淹れる際、上投法*8という方法で淹れることがあります。以下の動画の2:25前後から実演されている方法です。

youtu.be

とはいえ、紅茶を淹れるときは基本的に気にしなくてもよいでしょう。というのも、紅茶は揉捻や揉切、篩い分けなどの工程で産毛が落ちてしまうことが多いので、生葉の産毛がそのまま残っているような繊細な茶葉は少ないからです*9。しかも、紅茶はなるべく高い温度のお湯で茶葉の香りを引き出す必要がありますが、お湯の後にティーバッグを入れると茶葉の抽出が始まるまでにお湯の温度が下がってしまううえ、中の茶葉がお湯に浸りきらないことがあります。

左のカップティーバッグ→お湯の順、右はお湯→ティーバッグの順です。お湯を注いでから1分後の写真ですが、右は茶葉の一部がお湯に浸っていません。

それでも茶葉への刺激が気になるのであれば、茶葉に直接お湯が当たらないように注げばよいと思います。茶器の中にはある程度のスペースがあるはずなので、茶葉が乗っていない部分を目がけてお湯を注げば、茶葉に直接負担がかかる心配をせずに済むのではないでしょうか。

*1:上に挙げた3つのお茶の場合、それぞれメントール香、マスカテルフレーバー、ミルキーな香りが特徴であると言われます。

*2:余談ですが、今季のウバハイランズはそういう茶葉がいくつかあったので、購入するのをやめておきました。

*3:と言いつつ、僕自身はわりとよくやりがちなので、僕と一緒に紅茶を飲んだことがある人は、「この香り、何かに似てるんだよなぁ……」とぶつぶつ呟きながら紅茶を飲んでいる僕を見ているかもしれません。

*4:たとえば、僕は雲南省の紅茶を飲むと謎の清涼感を覚えていたのですが、中国茶専門店のサイトで「柑橘系の香り」と表現されているのを見てから、自分でも柚子やポンカンのような香りを感じるようになりました。

*5:僕も最近、紅茶の香りをアスパラガスに喩えている英国ブランドを見つけてびっくりしました。

*6:英語のクローナル(clonal)という単語自体がクローン(clone)の形容詞形です。

*7:「だったら同じ茶樹の雄しべと雌しべで受粉させればよくない?」と思われるかもしれませんが、チャノキは自家不和合性が強く、自家受粉をほとんどしないと言われています。

*8:読みは「じょうとうほう」または「うえなげほう」です。

*9:ただし、なるべく機械を使わず人の手で作られた紅茶には、生葉の産毛が残っていることがあります。しかし、こうした茶葉は当然ながら非常に高価であり、ティーバッグ用として使われることはほとんどありません。